今回はノベルジン(酢酸亜鉛)の服薬指導をまとめました。
ノベルジンは従来はウィルソン病の効能のみでしたが、2017年3月に新たに「低亜鉛血症」の効能が追加となりました。
従来は調剤薬局で調剤する頻度は少なかったかと思いますが、この効能追加で調剤する機会が増える可能性があります。
効能により確認することが異なり、ウィルソン病の場合のほうが確認項目が多いため服薬指導難度が高くなります。
ノベルジンの概要
服薬指導難度
ウィルソン病(肝レンズ核変性症)の場合
低亜鉛血症の場合
効能
・ウィルソン病(肝レンズ核変性症)
・低亜鉛血症
用法・用量
従来の効能であるウィルソン病では用法が「空腹時(食前1時間以上または食後2時間以上あける)」ですが、「低亜鉛血症」では「食後」となっています。また1日の投与回数や用量も異なっており、低亜鉛血症のほうが低用量となっています。
〈ウィルソン病(肝レンズ核変性症)〉
成人には、亜鉛として、通常1 回50mgを1 日3 回経口投与する。なお、年齢、症状に応じて適宜増減するが、最大投与量は1日250mg(1回50mgを1 日5 回投与)とする。6 歳以上の小児には、亜鉛として、通常1 回25mgを1 日3 回経口投与する。
1 歳以上6 歳未満の小児には、亜鉛として、通常1回25mgを1 日2回経口投与する。なお、いずれの場合も、食前1時間以上又は食後2 時間以上あけて投与すること。
〈低亜鉛血症〉
通常、成人及び体重30kg以上の小児では、亜鉛として、1 回25~50mgを開始用量とし1 日2 回経口投与する。通常、体重30kg未満の小児では、亜鉛として、1 回25mgを開始用量とし1 日1 回経口投与する。
血清亜鉛濃度や患者の状態により適宜増減するが、最大投与量は成人及び体重30kg以上の小児では1 日150mg(1 回50mgを1日3回)、体重30kg未満の小児では75mg(1回25mgを1日3回)とする。
なお、いずれの場合も、食後に投与すること。
名前の由来
本剤の開発会社である Nobelpharma と亜鉛(Zinc)を組み合せて命名されています。
指導せん
「ノベルジンを服用されている方へ」という低亜鉛血症の指導せんがあります。この指導せんには不適切な記載があるため、使わない方がよいかと思います。
使う場合は下記の余分な記載を口頭で補足する必要が生じるため注意が必要です。
次に来院される際は、ノベルジンを服用せずに来てください(原則、午前中)。採血して亜鉛の値を測ります
次回、亜鉛濃度を測るかどうかや、測り方(時間帯や当日服用しないかどうか)は病院により異なるため、何も補足せずにこの指導せんを渡してしまうとトラブルになる可能性があります。
なお、この記載はノベルジンを測定日の朝に服用するとTmaxが数時間のため、濃度の山の部分での測定となり正確でなくなることや、亜鉛欠乏症の診療指針 2016に「血清亜鉛濃度は日内変動(午前に値が高く、午後に低下する)や食事の影響を受けるため、早朝空腹時に測定するのが望ましい」などと記載されていることが理由のようです。
ノベルジンの服薬指導で確認すること
①用法及び効能の確認
ノベルジンは使用する効能により、用法や確認することなどが異なってくるため、最初にウィルソン病か低亜鉛血症かどちらの効能で使うのかを確認します。
処方箋上はウィルソン病であれば用法が「食前 1 時間以上又は食後 2 時間以上」、低亜鉛血症であれば、「食後」のため見分けがつきやすいかと思います。もし、使用する効能と用法が一致しない場合は疑義照会対象となります。
なお、効能により用法が異なる理由はインタビューフォームに下記のように記載があります。
亜鉛の吸収は、飲食物(パン、野菜、果物、卵、ミルク、コーヒー等)の影響(吸収阻害)を受けることから、設定した 。 特にフィチン酸と繊維を中心とした食物中成分は、亜鉛と結合し、腸管細胞への亜鉛の取り込みを阻害し、亜鉛の吸収が遅延することが報告されている 。
本剤を空腹時に投与した場合、悪心・嘔吐等の消化器系副作用が出現しやすくなるといわれている 。ウィルソン病においては疾患の重篤性を鑑み、亜鉛吸収における食物の影響を避けるため用法を厳密に設定した。
一方、低亜鉛血症においては、消化器系副作用を可能な限り回避するため食後投与と設定した。
これらの理由により、ウィルソン病と低亜鉛血症では用法が異なった記載となっている。
②亜鉛の併用の有無【併用注意】
プロマックやサプリメントなどでの亜鉛の服用の有無を確認します。併用が有る場合でかつ、医師に伝えていない場合は疑義照会対象となります。この場合は亜鉛として1日何mgとなるかも併せて伝える必要があります。
プロマックの亜鉛含有量
なお、従来より適用外で使用されるケースの多いプロマックは、錠剤1錠(顆粒1包0.5g)中に「亜鉛」を16.9mg含みます。
通常用量であればこれを1日2回服用するため、1日の「亜鉛」摂取量は33.8mgとなります。
③吸収が低下する薬剤の併用の有無【併用注意】
テトラサイクリン、キノロン、セフゾン 、経口鉄剤 、ビスホスホネート系製剤 、レボレード(エルトロンボパグ オラミン)、テビケイ、トリーメク配合錠(ドルテグラビル)などはノベルジンと同時投与した場合、ノベルジン及びこれらの薬剤の吸収率が低下する可能性があるため併用注意となるため、併用の有無を確認します。
併用ありの場合は服用間隔をずらせるかを検討します。
④キレート剤の併用の有無【用法・用量に関連する使用上の注意】(ウィルソン病の場合)
既にウィルソン病の症状が発現している患者においては、メタルカプターゼやメタライトなどのキレート剤の併用することとされているため併用を確認します。
ただし、無症候性のウィルソン病患者には初期治療として本剤単独投与でもよいとされているため、キレート剤の併用がない場合はウィルソン病の症状がないことを確認します。
症状があるにも関わらず、ノベルジン単独処方の場合は疑義照会対象となります。
なお、併用有りと確認できた場合は、ノベルジンとキレート剤を併用する場合には、1 時間以上あけて投与すること」とされているため、用法も確認します。
本剤は、キレート剤とは異なり、腸管でのメタロチオネイン(MT)誘導による銅吸収阻害という作用機序を有することから、その効果は遅れて発現する(本剤投与5 日後から MT 誘導が認められる)。
したがって、既にウィルソン病の症状が発現している患者(症候性患者)においては、体内からの銅の除去(除銅)が優先されることから、初期治療としては銅キレート剤単独もしくは銅キレート剤と本剤の併用が適切と考えられる。
なお、本剤とキレート剤を併用する場合には、それぞれの薬剤の内服時間の間隔をあけることが推奨されている。
国内試験においては、キレート剤による初期治療が行われた症候性患者を対象に、本剤単独による維持治療期の試験が実施されている。しかし、除銅が行われていない症候性患者での使用経験がなく、症候性患者の初期治療としての本剤単独使用の有効性は確認されていない。本剤とキレート剤を併用する場合の注意については、「相互作用」の項を参照。
なお、無症候性(発症前)患者の初期治療には、本剤の国内での使用経験は少ないものの、外国での使用経験から、本剤は、無症候性患者への単独投与が可能と考えられる
⑤ 尿検査の有無及び投与日数の確認及び妊娠の有無の確認【用法・用量に関連する使用上の注意】(ウィルソン病の場合)
投与開始初期には、少なくとも 1 ヵ月毎に尿中銅排泄量検査を行い、その結果に応じて用量の調節が必要とされるため尿検査の有無を確認します。
また、投与日数が 1 ヵ月毎に尿中銅排泄量検査を行えないだろう日数で、かつ患者が検査予定を聞いていない場合は疑義照会対象となります。
なお、妊娠している場合は、胎児の銅欠乏は先天性奇形のリスク因子の 1 つであり、銅を必要とする胎児の発達に影響を与える可能性が報告されており、過度の除銅を避けるため、投与初期だけでなく、妊娠している間は1 ヵ月毎にこの検査が必要とされます。
投与開始初期には、少なくとも 1 ヵ月毎に尿中銅排泄量検査を行い、尿中銅排泄量に応じて用量を調節すること。また、本剤投与継続中も症状推移を勘案しながら、定期的に検査を行うこと。
妊婦に投与する場合は、1 ヵ月毎に尿中銅排泄量検査を行い、銅欠乏をきたすことがないよう、亜鉛として 1 回 25 mg に減量するなど尿中銅排泄量に応じて用量を調節すること
⑥採血の有無【用法・用量に関連する使用上の注意】(低亜鉛血症の場合)
本剤投与開始時は血清亜鉛濃度の確認が必要のため採血の有無を聴取します。血清亜鉛濃度の測定を行っていない場合は疑義照会対象となります。
本剤投与開始時及び用量変更時には、血清亜鉛濃度の確認を行うこと。なお、血清亜鉛濃度を測定するための採血は本剤を服薬する前に行うことが望ましい。
ノベルジンの服薬指導で伝えること
①用法を守ること
低亜鉛血症の場合は、消化器系副作用を防ぐため、食後を守るよう説明し、ウィルソン病の場合は食後では亜鉛の吸収が悪くなるため、指示された用法(食前1時間以上又は食後2 時間以上)を守るよう説明します。
ノベルジンの服薬指導薬歴例
低亜鉛血症の場合
S)低亜鉛血症
O)併用なし。サプリメントなどの併用なし。採血あり亜鉛測定済み
A)消化器系副作用を防ぐため、食後を守るよう説明
P)状態確認
ウィルソン病の場合
S)ウィルソン病。メタルカプターゼも併用する。
O)他院併用なし。サプリメントなどの併用なし。尿検査あり
A)食後では亜鉛の吸収が悪くなるため、指示された用法を守る事説明。
P)状態確認
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