今回は2019年9月に発売された「結膜炎、眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎」を効能とするマクロライド系抗菌剤のアジマイシン(アジスロマイシン)点眼液の服薬指導をまとめました。
点眼薬の中では極めて用法、投与日数などが複雑であるため、調剤する機会がない場合でも認識しておいたほうがよい製剤です。
アジマイシン点眼液の特徴
1.用法が極めて複雑
点眼液としては、極めて用法が複雑な製剤です。最初の2日は 1日2回ですが 、その後1日1回という用法であり、さらには点眼としては珍しく使用日数も決まっています。
また、効能により対象年齢と使用日数が異なります。
なお、 最初の2日の1日2回というのは、組織内濃度を高める意味合いで設定されたものであり、特に1日1回の場合と比較して設定されたわけではないようです。
2.粘性が高い
粘性が高いため、使用前に下に向け、数回振ってからキャップを開けて点眼することとされています。
なお、粘性ですが、点眼順序を最後にしたほうがよいなどの規定はなく、間隔も他の水性点眼と同様に5 分間でよいようでした。
3.眼表面上での滞留性を向上させる添加剤が配合されている
添加剤としてポリカルボフィルなどが配合されたDDS製剤であり、ウサギでは結膜、角膜、眼瞼への移行性及び滞留性が良好とされています。
4.冷所保存
抗菌薬としては珍しく、1本2.5mLで冷所保存(開栓後は室温保存)となっています。
5.角膜障害
角膜障害 (霧視、異物感、眼痛等) があらわれることがあるため説明が必要となります。
臨床上の位置付け
近年、眼科領域においても起因菌の各種抗菌薬に対する耐性化に警鐘が鳴らされていますが、抗菌点眼剤はキノロン系抗菌薬以外の選択肢は限られていることから、アジマイシンのように抗菌点眼剤の選択肢を充実させることは眼感染症治療において臨床上意義があると考えられています。
なお、他のマクロライド系点眼剤のエコリシン点眼はすでに販売中止となってます(エコリシン眼軟膏は販売してます)。
承認審査時の留意事項
申請時は、「眼科周術期の減菌法」の効能も申請していたようですが、眼科周術期の減菌法として汎用されるキノロン系抗菌点眼剤と比較し、アジマイシンの術前菌陰性率等の臨床試験成績が劣る傾向(キノロン系は80%前後だが、アジマイシン50%程度と20〜30%程度低かった)にあることなどから効能として認められませんでした。
また、「細菌性結膜炎」に対する有効性について、国内第Ⅲ相試験では、基剤(プラセボ)に対して有意差がでなかったためアジマイシンの優越性は検証されず、選択基準や評価項目等を変更した試験では基剤に対して有意差がでて本薬の優越性が検証されています。
当初の試験デザインで有意差が出なかった理由については、アジマイシン群及び基剤群における自然治癒過程をたどった軽症の被験者が多かったことや「眼脂」の重症度が低い被験者が多かったことなどが挙げられています。
詳細を知りたい場合はPMDAの添付文書検索から承認審査報告書のpdfを参照してください。該当部分は語句検索で「優越」で検索していくと早く見つかります。
ベンザルコニウムについて
抗菌薬としては珍しく添加物としてベンザルコニウムが配合されています。
製薬会社に確認したところ、アジマイシンは海外で発売されている製剤であり、添加剤も同じにしているためとのことでした。
アジマイシン(アジスロマイシン)点眼液の概要
服薬指導難度
効能〈適応症〉
〇結膜炎
〇眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎
<適応菌種>
アジスロマイシンに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、コリネバクテリウム属、インフルエンザ菌、アクネ菌
包装・規格
アジマイシン点眼液1%
プラスチック点眼容器
・2.5mL×5
・2.5mL×10
貯法
2~8 ℃に保存
開栓後は室温保存とする(取扱い上の注意)
用法・用量
<結膜炎>
通常、成人及び 7 歳以上の小児には、1回1 滴、1日2回2日間、その後、1日1回5日間点眼する。
<眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎>
通常、成人には、1回1滴、1日2回2日間、その後、1日1回12日間点眼する。
名前の由来
本剤の有効成分である“アジスロマイシン”の文字の組み合わせで命名されています。
指導せん
「アジマイシン点眼液1%を使用される患者さまへ」という冊子タイプの指導せんが存在します。説明が必要な下記の内容は網羅されているため用意しておくとかなり有用です。
・角膜障害(霧視、異物感、眼痛等)の説明
・点眼容器を下に向け、数回振ってからキャップを開けて点眼すること
・未開封の場合は冷蔵庫保管、開栓後は室温保存のことを説明します。
・点眼方法・日数を守ること、点眼スケジュール
残念ながら製薬会社のホームページからは印刷できないようです。一応、インタビューフォームの最後の方のページから印刷することができますが、ここでは白黒で縮小記載のため見づらくなっています。
アジマイシンの服薬指導で確認すること
①年齢及び効能と用法の確認
効能により対象年齢と使用期間が異なるため、確認します。添付文書の使い方と異なる場合は疑義照会対象となります。
・7歳未満ではどの効能でも適応外のため、疑義照会対象となります。
・7歳以上15歳未満では結膜炎の効能のみ対象となります。結膜炎以外であれば疑義照会対象となります。
・成人ではどの効能でも使用可能です。
<結膜炎>
通常、成人及び 7 歳以上の小児には、1回1滴、1日2回2日間、その後、1日1回5日間点眼する。
<眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎>
通常、成人には、1回1 滴、1日2回2日間、その後、1日1回12日間点眼する。
アジマイシンの服薬指導で伝えること
①用法・日数を守ることの説明【重要な基本的注意】 指導せんに記載があり
添付文書上は耐性菌発現防止の意味合いで、用法及び用量を遵守するように記載されていますが、そもそも通常の目薬よりも用法が複雑なため、間違えないようにという意味合いでも注意するよう説明します。指導せん後半の点眼カレンダーを見せながら説明するのがよいかと思います。
<重要な基本的注意>
本剤の投与にあたっては、耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、用法及び用量を遵守するよう患者に十分指導すること。
治った場合にやめてよいか使いきるのか
製薬会社に確認したところ、治った場合にやめてよいか使いきるのかは医師の指示しだい(臨床試験では、改善しても規定の日にち使いきったようです)のようなので、患者には「通常この日数の使用だが、医師から治ったらやめていいと言われているようであれば医師の指示を優先してください」といった説明をするのがよいかもしれません。
何も聞いていないようであれば、疑義照会して改善した時点でやめてよいか、指示日数使い切ったほうがいいのか、医師の意向を聞いてみるとよいかと思います。
②角膜障害(霧視、異物感、眼痛等)の説明【重要な基本的注意】 指導せんに記載あり
角膜障害があらわれることがあるため、目のかすみ、目の異物感、目の痛み、しみる、かゆみなどあらわれた場合はすぐ受診するよう説明します。
なお、「しみる、かゆみ」については指導せんに記載の症状ですが、製薬会社に確認したところ、これは角膜障害の症状としての意味合いと、その他の副作用としての意味合い両方あるとのことでした。
<重要な基本的注意>
本剤の投与により角膜障害があらわれることがあるので、霧視、異物感、眼痛等の自覚症状があらわれた場合には、直ちに投与を中止し受診するよう患者に十分指導すること。
③使用方法の説明【適用上の注意】指導せんに記載あり
強い粘性があるため、投与時に適量を点眼できるように、点眼容器を下に向け、数回振ってからキャップを開けて点眼することを説明します。
<適用上の注意>
患者に対し以下の点に注意するよう指導すること。
・キャップをしたまま点眼容器を下に向け、数回振ってからキャップを開けて点眼すること。
④貯法の説明【貯法・取扱い上の注意】指導せんに記載あり
未開封の場合は冷蔵庫保管、開栓後は室温保存のことを説明します。
⑤ 容器を傾けないで垂直に点眼すること
添付文書にも指導せんにも記載なく、アジマイシンの説明動画にしか記載がないようですが、容器を傾けないで垂直に点眼する必要があることを説明します。
製薬会社によると、容器を傾けたり横にして点眼してしまうと、粘性があるため1滴の量が多くなりすぎて、残液が規定の日数持たないかもしれないとのことでした。
アジマイシンの服薬指導薬歴例
S)結膜炎。なおったらやめてよいといわれてる
O)10歳
A)用法・日数注意説明。指導せんを渡して 目のかすみ、目の異物感、目の痛み、しみる、かゆみなどあらわれた場合はすぐ受診するよう説明。貯法・期限・下向き振とう、垂直に点眼すること説明。
P)状態確認
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