業務多忙により、製薬会社に確認する時間が捻出できなかったため、提供が遅れていました。2022年8月分のDSUのなかから薬局薬剤師に関係がありそうな薬剤を抜粋してまとめました。
今回はマイスリー・アモバン・ハルシオンの禁忌追加についての内容が主なものとなります。すべての薬剤師が認識しておく必要があります。
①マイスリー・アモバン・ハルシオン【禁忌】
「禁忌」の項に「本剤により睡眠随伴症状(夢遊症状等)として異常行動を発現したことがある患者」が追記されました。また、重大な副作用にも「睡眠随伴症状(夢遊症状等)(頻度不明)」が追記されました。
このため、睡眠随伴症状(夢遊症状等)の異常行動が見られた際は減量などではなく、禁忌に該当するため中止となります。
なお、マイスリーでは重大な副作用に「死亡を含む重篤な自傷・他傷行為、事故等の報告がある」旨の追記もされています。
<禁忌>
本剤により睡眠随伴症状(夢遊症状等)として異常行動を発現したことがある患者[重篤な自傷・他傷行為、事故等に至る睡眠随伴症状を発現するおそれがある。]
改訂の経緯
FDA にて非ベンゾジアゼピン系薬剤について(1)複雑な睡眠行動既往患者への使用は禁忌とする、(2)複雑な睡眠行動により死亡を含む重篤な傷害を負う又は負わせる危険がある旨を注意喚起するという措置がとられたことからの改訂となりますが、国内症例や専門委員の意見等を踏まえ、非ベンゾジアゼピン系のゾルピデム、ゾピクロン、ベンゾジアゼピン系のトリアゾラムの3種で禁忌追記となっています。
ルネスタ(エスゾピクロン)については、睡眠随伴症状関連の国内症例の集積がないことなどから現時点では「禁忌」ではなく「慎重投与(特定の背景を有する患者に関する注意)」での注意喚起となっています。
下記の使用上の注意改訂の内容にも目を通しておいたほうがよいかと思います。
<参考>
・マイスリー 使用上の注意改訂のお知らせ
・アモバン 使用上の注意改訂のお知らせ
薬剤師としての対応
教育よりの内容となってしまいますが、薬剤師として必要と考えられる初回服薬指導の対応を下記にまとめました。
【確認すること①】過去に睡眠薬で合わなかった経験の有無【禁忌】
今まで睡眠薬を服用して合わなかったことがなかったかを確認します。
過去に今回処方と同じ成分により異常行動が認められていた場合は禁忌となるので疑義照会対象となります。
【確認すること②】緑内障・筋肉の病気の有無【禁忌】
急性閉塞隅角緑内障、重症筋無力症が禁忌であるため確認します。
なお、緑内障に該当する場合は睡眠剤処方医師ではなく、眼科に確認をとるのが適切かと思います。
以前に緑内障禁忌の薬剤の患者対応についてまとめているので下記もご参照ください。
【確認すること③】添付文書の用量を逸脱していないか【用法・用量】
処方が「少量から投与」や「最高用量」などの添付文書の用量から逸脱していないかを確認します。逸脱している場合は疑義照会対象となります。
今回の内容が世間でどの程度話題になっているかは何とも言えませんが、添付文書の用量から逸脱した処方により、睡眠随伴症状(夢遊症状等)で自傷・他傷行為、事故等を起こした際には、疑義照会をしていない場合は薬剤師も責任を問われる可能性が十分あるかと思います。
なお、マイスリーの「用法・用量」の記載には開始用量について、「高齢者には1回5mgから投与を開始する」といった、高齢者でなければ10mgからでも可能と誤解してしまうような不適切な記載となっているので注意する必要があります。
製薬会社にも確認しましたが、実際は「用法及び用量に関連する注意」の記載が正しく、年齢にかかわらず「少量(1回5mg)から投与を開始すること」とされています。
【伝えること①】異常行動が認められた場合は投与を中止し受診すること
異常行動が認められた場合は受診することを説明します。
個人的には「薬を飲んだらすぐに布団に入ること」という内容からつなげるように下記のように説明しようかと考えてます。
<説明例>
薬を飲んだらすぐに布団に入ってください。飲んでから寝ないで作業するともうろうとしたり、夢遊病みたくなってしまったり危ないので。
すぐに布団に入れば、こういった合わない症状はほとんど起こりませんが、万一みられる場合は薬が変わるので受診してください。
【伝えること②】アルコールは避けること・指示量を超えて服用しないこと・運転など避けること
アルコールは避けること、指示量を超えて服用しないこと・翌朝以後も運転など避けることを説明します。
<薬歴例>
S)不眠症
O)眠剤でのSE歴無し
A)寝る直前に服用指示。異常行動が認められた場合は受診すること説明。
アルコール避けること。翌朝以後も運転など避けるよう指示。
P)効果確認
②ハルシオン(トリアゾラム)
強い CYP3A 阻害剤である「ノクサフィル(ポサコナゾール)」が併用禁忌に追加となりました。
ノクサフィル側の添付文書でも同時期に改訂となっています。
ハルシオンの CCDS(各国の添付文書を作成する際に基準としている製品情報文書)が改訂され、強い CYP3A阻害剤との併用が禁忌であることが明記されたので、CCDS との整合性に基づき、強いCYP3A 阻害剤と考えられる「ポサコナゾール」が追加となったようです。
CCDSで強い CYP3A阻害剤との併用が禁忌であることが明記されたので、日本の添付文書でも同様の記載になるのかと思いましたが、日本の添付文書ではこの部分は明記されず、強いCYP3A阻害剤のうちノクサフィルやいくつかのHIVの薬剤(レイアタッツなど)のみの併用禁忌追記にとどまり、他のクラリスロマイシンなどの強い CYP3A阻害剤は併用禁忌には追記されませんでした。
クラリスロマシンの併用は注意する必要がある
クラリスロマイシンは今回の改訂では併用禁忌にはなっておらず、従来通りの併用注意となっています。
ただし、添付文書にはAUC上昇率の記載がありませんが、クラリス側の製薬会社に確認したところ、併用によりハルシオンのAUCが5倍に上昇した報告があるので、処方上でクラリスロマイシンの必然性がないようであれば疑義照会したほうがよいかもしれません。
疑義照会をしない場合でも患者に対してはCAMの併用により、稀にハルシオンの効き目が上がる場合があるので、効きすぎたり持ち越しが出る場合は抗生剤が変わる可能性があるので受診するよう伝える必要があります。
グレープフルーツを避けるよう伝える
グレープフルーツジュースが併用注意に追記となったため、現在ハルシオンを服用している患者も含め、今後はグレープフルーツを避けるように伝える必要があります。
製薬会やに確認したところ、グレープフルーツジュース200mL単回服用でハルシオンのAUCが1.5倍となった報告がありました。
なお、添付文書上は「ジュース」となっていますが、果実なども同様と考えられるため、「グレープフルーツ自体」を避けるように伝える必要があります。
③ニュープロパッチ(ロチゴチン)
支持体からアルミニウムを除いた組成変更によりAED(自動体外式除細動器)や MRI(核磁気共鳴画像法)等の実施時においても本剤をはがす必要がなくなったことから、下記の注意事項が削除されました。
<適用上の注意削除>
以下の療法を行う時には、前もって本剤を除去すること。
・電気的除細動(DC細動除去等)
自動体外式除細動器(AED)等と接触した場合、本剤の支持体にアルミニウムが含まれるため、本剤の貼付部位に火傷を引き起こすおそれがある。
・MRI(核磁気共鳴画像法)
本剤の支持体にアルミニウムが含まれるため、本剤の貼付部位に火傷を引き起こすおそれがある。
・ジアテルミー(高周波療法)
本剤の温度が上昇するおそれがある
④サラゾスルファピリジン腸溶錠「SN」
「用法・用量に関連する使用上の注意」に250mg規格と500mg規格で物学的同等性は示されていないため、互換使用を行わないことが追記されました。
こういった記載は一部の限られた薬剤で見かけますが、この薬剤のように先発品ではこの記載がなく、ジェネリック製剤だけ記載されている場合は特に見落としがちなため注意する必要があります。
このような製剤では薬局に在庫がないからといって「500mg 1錠」を「250mg 2錠」に変更するような対応はNGとなります。
なお、サラゾスルファピリジン腸溶錠「武田テバ」も同様の記載があります。
また、同様の記載は他製剤として比較的メジャーな薬剤としてはケレンディア、ゾフルーザ、リムパーザ、ラベプラゾールのジェネリック製剤、タダラフィル錠10mgCI「FCI」などがあります。
あまりメジャーでない薬剤としてはカボメティクス、メキニスト、メーゼントなどがあります。
<用法・用量に関連する使用上の注意>
サラゾスルファピリジン腸溶錠250mg「SN」とサラゾスルファピリジン腸溶錠500mg「SN」の生物学的同等性は示されていないため、250mg錠と500mg錠の互換使用を行わないこと。
なぜいまさら追記?
サラゾスルファピリジン腸溶錠「SN」は以前から販売しているのに、なぜいまさら追記になったかというと、製剤設計が異なる場合は規格間でも試験により生物学同等性を確認しないと、同等性が担保されないとされているようで、「SN」は250mgと500mgとで製造所が異なるため今回「製剤設計が異なる」とみなされ指摘されたようです。
試験はしていないので今回の文言が追記されました。
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