今回は2013年2月に発売された血液凝固活性化第X因子(FXa)を可逆的に阻害する経口抗凝固薬であるエリキュース(アピキサバン)の服用指導をまとめました。
従来は心房細動のみの効能でしたが、2015年12月より「静脈血栓塞栓症」効能がついかとなりました。従来の心房細動とでは用量や減量基準の有無・禁忌となるクレアチニンの値が異なるため注意が必要です。
なお、血液凝固阻止剤の特定薬剤(ハイリスク薬)管理指導加算については下記の記事をご参照ください。

エリキュースの概要
服薬指導難度
効能・用法用量
1.非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
通常、成人にはアピキサバンとして1回5mgを1日2回経口投与する。
なお、年齢、体重、腎機能に応じて、アピキサバンとして1回2.5mg1日2回投与へ減量する。
2.静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制
通常、成人にはアピキサバンとして1回10mgを1日2回、7日間経口投与した後、1回5mgを1日2回経口投与する。
名前の由来
エリキュースの名前の由来はElegant(優雅な)とLiquid(液体)の合成語として命され、Equilibrium(平衡)の意味も含んでいるとされています。
指導せん
指導せんに関しては「エリキュース錠を服用される患者さまへ」という指導せんがあります。出血に関する注意や飲み忘れの対応が記載してあるので用意しておくと役に立ちます。
特徴
エリキュースな主に以下の特徴があります。
①心房細動患者の場合は年齢・体重・腎機能に応じて用量を減量する必要がある
②出血(皮下、消化管、頭蓋内など)に関する注意が必要
③出血のリスクがある処置の際の注意が必要
④貧血の注意が必要
⑤ワルファリンからの切り替えの対応・ワルファリンへの切り替えの対応が明示されている
エリキュースの服薬指導で確認すること
① 肝障害の有無【血液凝固異常及び臨床的に重要な出血リスクを有する肝疾患患者禁忌】
通常の肝疾患患者ではなく、血液凝固異常と臨床的に重要な出血リスクの両方を有する肝疾患患者が禁忌となるためかなり限定された患者が対象となります。これは臨床的に重要な出血リスクを有する肝疾患患者がさらに血液凝固異常を伴う場合、極めて出血リスクが高くなる可能性があるため設定されています。
なお、臨床的に重要な出血リスクとは、出血した場合に迅速な止血が困難で重度の出血を生じる可能性のある疾患や状態を指すとされており、インタビューフォームには例として、食道静脈瘤、胃十二指腸潰瘍、動脈瘤、著明な血小板減少が挙げられています。
服薬指導の際は、まず肝疾患の有無を聴取し、有りの場合はそれから禁忌に該当するか聴取していくといった対応になると思います。
②腎障害の有無【禁忌】
心房細動患者の場合は腎不全(クレアチニンクリアランス(CLcr)15mL/min未満)が禁忌となりますが、静脈血栓塞栓症の場合は重度の腎障害(CLcr 30mL/min未満)で禁忌となります。
服薬指導の際は腎機能が悪くないか聴取します。
悪いと言われているようであれば、血清クレアチニン値と体重、(身長)を聞き出して、処方箋から年齢を確認し、クレアチニンクリアランスを計算し、禁忌に該当するか確認します(インターネット上のクレアチニンクリアランス計算サイトを使うと簡便です)。

③年齢・体重・血清クレアチニンの確認【心房細動患者の場合】
心房細動の効能の場合は「80歳以上」、「体重60kg以下」、「血清クレアチニン1.5mg/dL以上」のうち、2つ以上に該当する患者は出血のリスクが高く、本剤の血中濃度が上昇するおそれがあるため、1回2.5mg1日2回に減量する必要があります。
臨床薬理的検討から、エリキュース投与において単独のリスク因子による投与量の減量の必要性はなく、いくつかのリスク因子が組み合わされた患者では、本剤の血中濃度が高くなる可能性が考えられ減量が必要とされています。
特に「高齢」、「低体重」、「腎機能障害」のいずれかが重複した場合は、本質的に出血のリスクが高く、エリキュースの薬物動態への影響が増大することが予想されるため設定されています。
④ワーファリンとの切り替え【重要な基本的注意】
ワーファリンからエリキュースへの切り替え
ワルファリンからエリキュースへ切り替える際には、ワルファリンの投与を中止し、PT-INRが2.0未満となってから本剤の投与を開始することとされています。
エリキュースからワーファリンへの切り替え
エリキュースからワルファリンに切り替える際には、PT-INRが治療域の下限を超えるまでは、エリキュースとワルファリンを併用することとされています。
これはワルファリンの治療開始初期においては抗凝固作用が安定していないためであり、十分な抗凝固作用の発現が得られていることを確認した上で本剤を中止することにより、継続的に抗凝固作用を得ることができるためとされています。
⑤効能の確認
効能により用法や減量基準の有無・禁忌となるクレアチニンの値が異なるため、静脈血栓塞栓症か心房細動どちらで使うのかを患者から聴取します。
エリキュースの服薬指導で伝えること
① 出血に関する注意【重要な基本的注意】
鼻出血、皮下出血、歯肉出血、血尿、喀血、吐血及び血便等、異常な出血の徴候が認められた場合、医師に連絡するよう指導することとされています。
これは出血の重篤化を未然に防ぐために、出血やその徴候が認められた場合には、医師に連絡するよう指導することと設定されています。なお、血便は赤色だけでなくタール便も含むことを患者に説明しておいたほうがよいでしょう。
②出血のリスクがある処置の際の注意【重要な基本的注意】
出血に関して低リスク又は出血が限定的でコントロールが可能な手術・侵襲的手技を実施する場合は、前回投与から少なくとも24時間以上の間隔をあけることが望ましい。
また、出血に関して中~高リスク又は臨床的に重要な出血を起こすおそれのある手術・侵襲的手技を実施する場合は、前回投与から少なくとも48時間以上の間隔をあけること。なお、必要に応じて代替療法(ヘパリン等)の使用を考慮することと記載があります。
中止するかどうかは医師がエリキュース中止による血栓のリスクと継続による出血のリスクを勘案して判断するため、出血のリスクがある処置を行う際は事前に主治医に相談するのがよいかと思います。
③服用忘れの際の注意【重要な基本的注意】
服用し忘れた場合には、気づいたときにすぐに1回量を服用し、その後通常どおり1日2回服用するよう指導すること。服用し忘れた場合でも一度に2回量を服用しないよう指導すること。
なお、プラザキサやリバーロキサバンなどと異なり服用忘れの際に気づいた時に服用し、次の服用まで何時間開ければよいかは明示されていません。
そのため、具体的にな飲み忘れの対応については「服用忘れの対応は医師により判断が異なるので事前に医師に確認しておくように」とだけ伝えるのがよいかもしれません。
④頭蓋内出血【重大な副作用】
添付文書上に具体的な症状の記載がないため、患者向医薬品ガイドを参考にします。運動のまひ、意識がうすれる、突然の頭痛、しゃべりにくいなどでる場合は救急車などですぐ受診するように説明します。
⑤貧血の注意【警告】
貧血等の徴候を十分に観察すること。これらの徴候が認められた場合には、直ちに適切な処置を行うこと、と記載があります。
ただし、添付文書上に貧血の具体的な症状の記載がないため、患者向け医薬品ガイドを参考にします。顔色が悪い、疲れやすい、どうき、息切れなどを貧血の症状として伝えます。
服薬指導薬歴例
S)エリキュース初です。心房細動で使う。
O)肝、腎異常なし。体重70kg
A)
鼻出血、皮下出血、歯肉出血、血尿、血便(タール便も)、吐血の際、又は顔色が悪い、疲れやすい、どうき、息切れなど貧血症状が疑われる際は直ちに医師に連絡指示。万一、激しい頭痛、うまくしゃべれない、意識がうすれるなど出る際は救急車などで受診指示。
服用し忘れた場合には、気づいたときにすぐに1回量を服用し、その後通常どおり1日2回服用するよう指導すること。服用し忘れた場合でも一度に2回量を服用しないよう指導。胃カメラや抜歯など出血のリスクがある処置を行う際は事前に主治医に相談するよう指示。
P)副作用確認
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