今回は「アトニー」が禁忌である薬剤に対する対応を考えました。
ベシケアなど主に過活動膀胱に対する薬剤で禁忌項目に設定されている「アトニー」は、病名ではなくアトニーという状態を示すため、実際にどの場合に禁忌に該当するのか、薬剤師側では判断することが難しく、疑わしい症例に遭遇した際にその対応に苦慮することが予想されます。
そのため、実際にどのようなケースで疑義照会をかけるかを個々の薬剤師が事前に考えておくことは重要かと思います。
個人的な考えとなりますが、アトニー禁忌の薬剤に対する対応を考えたので参考になればと思います。
アトニーとは
アトニーとは筋肉の緊張が低下した状態とされています。
病名ではなくこのような「状態」のことを示すので、個人的には製薬会社が禁忌項目にこれを設定するのは不適切だと思いますが、実際はベシケアなどの薬剤は胃アトニーや腸アトニーといった場合は禁忌になってしまいます。
胃アトニーの場合は胃下垂や現在の機能性ディスペプシアと同じような意味合いで用いられている場合もあるため、これらの状態が禁忌に該当するかどうかが重要となってきます。
製薬会社に確認しましたが、機能性ディスペプシアで「アトニー」状態であれば禁忌となるが、そうでない場合もあるため結局のところ、禁忌に該当するかは医師の判断によるという回答でした。
つまり、胃下垂や機能性ディスペプシアが禁忌に該当するかは曖昧な状態であり、それを診断した医師にしかわからないため、薬剤師としてはどういう場合に疑義照会するか非常に難しい問題となっています。
疑義照会が必要なケース
個人的に下記のケースは疑義照会したほうがよいかと考えています。
なお、アトニー禁忌の薬剤処方病院と胃下垂や機能性ディスペプシアなどと診断している病院が同じ場合は疑義照会がしやすいですが、異なる場合はやや疑義照会しづらいかと思います。
これは、前述してますが胃下垂や機能性ディスペプシアがアトニーに該当するかは、それを診断した医師にしかわからないためです。
場合によっては、アトニー禁忌の薬剤処方病院ではなくて、胃下垂や機能性ディスペプシアなどと診断している病院に、アトニー状態かどうかを確認する対応も考慮されます。
①アトニーの場合
患者が医師からアトニーと言われている場合は、対応が最も簡単です。
アトニー禁忌なので普通に疑義照会します。
②機能性ディスペプシアの場合
機能性ディスペプシアの可能性がある場合は疑義照会をしたほうがよいかと考えています。
アコファイドなどの併用がある場合は特にわかりやすいかと思います。
アコファイド継続中に同じ病院からベシケアが追加となった場合の疑義照会例
「ベシケアの処方頂いたのですが、この薬は胃腸の筋肉の緊張が低下したアトニーといわれる状態だと禁忌となってまして、いつもアコファイドを使っている患者なのでそういった病態の可能性があるのでご確認をと思いまして。」
アコファイド継続中に他の病院からベシケアが追加となった場合の疑義照会例
ベシケア処方病院ではなくて、アコファイドを処方している病院に、アトニー状態かどうかを確認する場合の問い合わせ例です。
「そちらでアコファイドをもらっている患者で確認させて頂きたいことがございまして、この患者が今日、泌尿器科でベシケアを処方されたのですが、この薬が胃や腸の緊張が低下したアトニーといわれるような状態が禁忌となってまして、アコファイドで治療されている場合そのような状態である場合があるので、投与可能かどうかご確認をと思いまして。
避けたほうがよいということであれば、泌尿器にその旨連絡し、薬剤の変更を検討してもらうようお話します。」
③胃下垂の場合
胃下垂の場合に疑義照会をするかは悩むところですが、医師から胃下垂と言われていて、かつそれによる胃もたれなどの症状もでているという場合は疑義照会を考慮してもよいかもしれません。
患者が個人的になんとなく胃下垂かと思うが、医師から言われたことがない場合や、医師から胃下垂と言われているが症状がない場合は、疑義照会はせずに、アトニー禁忌の薬剤服用で胃もたれなどの症状がでる場合は、中止となる可能性があるため受診するように説明するのがよいかと思います。
胃下垂と診断された病院からベシケアが追加となった場合の疑義照会例
「ベシケアの処方頂いたのですが、この薬は胃腸の筋肉の緊張が低下したアトニーといわれる状態だと禁忌となってまして、この患者は胃下垂で胃もたれもあるのでそういった病態の可能性もあるかと思いご確認をと思いまして。」
聴取方法
アトニー禁忌の薬剤の服薬指導の際に、アトニーでないことの確認方法として、以下の3点が考えられます。
①アトニーの有無
「アトニーと言われてないですか」と聴取する方法です。欠点はアトニーの状態でも医師が患者に「アトニー」と伝えることがどれだけあるか、ということかと思います。
②胃腸の病気の有無
「胃や腸の病気はないですか」とオープンクエッションのように聴取する方法です。
アトニーだけでなく、機能性ディスペプシアや捉え方によっては胃下垂も含めて確認できる可能性があります。
私はこの聴取方法を使っています。
③胃下垂の有無
「医師から胃下垂と言われないですか」と聴取する方法です。該当する場合は、胃もたれなどの症状が出ていないかも併せて確認します。
アトニー禁忌の薬剤
下記の薬剤は胃アトニー又は腸アトニーのある患者が禁忌となります。
これは抗コリン作用により消化管運動が低下するため症状が悪化するおそれがあるためです。薬効は頻尿や尿失禁関連の薬剤となっています。
・ネオキシテープ
・バップフォー
・デトルシトール
・ベシケア
・トビエース
代替薬
ウリトス/ステーブラはアトニーという文言は記載が無いものの、「消化管運動・緊張が低下している患者」が禁忌であり代替としては不適切かと思います。
ポラキスは禁忌に胃アトニーの記載がなく、腸アトニーも「高齢者の腸アトニー」という限定された禁忌となっているため、選択肢となるかと思いますが、同成分のネオキシテープでは「胃アトニー又は腸アトニー」は禁忌となっていることは留意しておく必要があるかと思います。
作用機序の異なるベタニスもこのような禁忌項目がなく候補として検討されます。なお、ベタニスへの変更を検討する場合は、疑義照会前に、あらかじめ患者がベタニスの禁忌項目や減量基準に該当しないことを確認しておくとよいかと思います。
また、2018年11月に発売されたベタニスと同じ作用機序の薬であるベオーバはベタニスに比べて、禁忌が少なく減量基準もないため使いやすいかと思います。
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