今回は2014年11月に発売された新薬である不眠症治療薬の新薬ベルソムラ(スボレキサント)の服薬指導をまとめました。併用禁忌の薬が多く特にクラリスロマイシンが併用禁忌であることや食直後の服用はTmaxが延長することは把握しておく必要があります。
また併用禁忌薬剤のひとつであるテラプレビルという薬剤は、一見してHIV感染症抗ウイルス薬のような名前ですが、実際はC型慢性肝炎の薬であることは留意しておくとよいと思います。
ベルソムラの基本情報
服薬指導難度
効能
不眠症
用法・用量
成人には1日1回20mgを、高齢者には1日1回15mgを就寝直前
特徴
・覚醒を促進するオレキシンの受容体への結合を阻害する、世界初のオレキシン受容体拮抗薬
・投与1週時、1ヵ月時、3ヵ月時の時点において、入眠障害、中途覚醒に対して効果が認められている。
名前の由来
「美しい眠り」を意味する ‘belle’( = beautiful) + ‘som’( = sleep)が由来となっています。
ベルソムラの服薬指導で確認すること
①CYP3Aを強く阻害する薬剤の併用の有無【併用禁忌】
CYP3Aを強く阻害する薬剤として現時点では添付文書に記載があるのは抗真菌剤(イトラコナゾール、ボリコナゾール)、マクロライド系抗生剤(クラリスロマイシン)、HIV感染症抗ウイルス剤(リトナビル、サキナビル、ネルフィナビル、インジナビル)、C型慢性肝炎抗ウイルス剤(テラプレビル)です。
調剤薬局で処方頻度が高いクラリスロマイシン(CAM)が併用禁忌な点は注意が必要です。エリスロマイシンは併用禁忌には記載がありませんがCYP3Aを阻害する作用は有しており、個人的には代替としてはアジスロマシン(ジスロマック)の方が適していると思います。
また、一般名表記されると混同されやすいのですがテラプレビルがHIV感染症抗ウイルス剤でなくC型慢性肝炎の薬のことは十分に注意が必要です。患者が薬の名前はわからないが肝臓の薬を飲んでいるといたときはテラプレビルでないことを確認する必要があります。
②併用注意に該当するCYP3Aを阻害する薬剤有無【併用注意】2016年11月改訂
2016年11月に改訂となり、併用注意に該当するCYP3Aを阻害する薬剤併用時にはベルソムラ10mgに減量を考慮することと記載されました。これに伴い10mg錠の規格が新発売となりました。
CYP3Aを阻害する薬剤(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等)との併用により、スボレキサントの血漿中濃度が上昇し、傾眠、疲労、入眠時麻痺、睡眠時随伴症、夢遊病等の副作用が増強されるおそれがあるため、これらの薬剤を併用する場合は1日1回10mgへの減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。
なお、添付文書にはヘルベッサー(ジルチアゼム)の併用によりベルソムラのAUCがおよそ2倍に増加すると記載されています。
また、「等」と記載があるため、上記の3剤意外でも、少なくともエリスロシンやフロリードゲル経口用などの薬剤は該当すると考えてよいかと思います。
③他の睡眠薬との併用の有無
他の不眠症治療薬と併用したときの有効性及び安全性は確立されていない【用法・用量に関連する使用上の注意】
④成人か高齢者か(用法用量)
成人か高齢者かで用量が異なる点に注意が必要です。成人には1回20mg。高齢者は1回15mです。
ベルソムラにおける高齢者とは何歳からか
ベルソムラの添付文書上では高齢者の具体的な年齢に関しては明記されておりません。そのため、何歳からを高齢者とし15mgで投与するかは医師の判断に委ねられます。
参考としては、臨床試験上では65歳以上が高齢者として設定されておりこの年齢から15mgで服用しています。高齢化の進んだ現在で65歳を高齢者とするか医師によっても意見が分かれるところでしょう。
20mgで処方が来た時に何歳から疑義紹介をするかは個人の判断となりますが、70歳を高齢者と考える割合は多いと考えられるので、少なくとも70歳以上であれば疑義紹介をしたほうが良いでしょう。
ベルソムラの服薬指導で伝えること
①就寝の直前に服用させること・服用後の作業の禁止【用法・用量に関連する使用上の注意】
第 I 相試験で本剤服用後1.5時間時に身体のふらつきの増加、情報処理の遅延や注意力低下がみられたため、服用して就寝した後、睡眠途中で一時的に起床して仕事等で活動する可能性があるときには服用させないことと設定されています。
②食事と同時又は食直後の服用は避けること【用法・用量に関連する使用上の注意】
食後投与した際、空腹時投与に比べてスボレキサントのTmaxの遅延(1~1.5 時間)が認められ、投与直後の血漿中濃度の低下がみられ入眠効果の発現が遅れるおそれがあるため設定されています。なお、AUCは変化がないとされています。
食後投与でTmaxの遅延が認められていますが添付文書上はなぜか「食直後」を避けるとされています。どちらで指導すればよいか迷うところですが個人的には添付文書に従い食直後(食後5分程度)を避けるよう指導し、可能であれば食後30分程度は避けるように指導するのが現実的かと思います。
③運転など避けること【重要な基本的注意】
添付文書には「本剤の影響が服用の翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」と記載されています。
自動車運転能力評価試験で本剤を就寝前投与し、翌朝(投与後 9 時間)に自動車走行検査を実施したところ自動車運転能力の低下が認められたため設定されています。ベルソムラは持越しが少ない印象がありますが、運転など避ける旨はしっかり指導する必要があることがわかります。
④アルコールの併用避けること説明【併用注意】
アルコール併用により精神運動機能の相加的な低下がみられたとされています。
⑤他科受診の際は伝えること(併用禁忌が多いため)
ベルソムラの薬歴例
S)不眠症
O)併用なし(併用禁忌・注意薬剤のないこと確認)
A)寝る直前に服用し、服用後の作業はしないよう指示。食直後の服用は避けること説明。アルコールの併用避けること説明。他科受診の際は伝えるよう指示。薬の効果の持ち越しで翌朝以後に眠気、ふらつきなどでることあるので運転など避けるよう指示。
P)効果確認
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