乳児ボツリヌス症に対する対応

乳児ボツリヌス症に対する対応
今回は、4月に東京都より発表されたはちみつの摂取が原因と推定される乳児ボツリヌス症により、生後6か月の乳児が死亡した事例に対する内容と薬剤師の対応をまとめました。

「1歳未満に対して蜂蜜を与えないこと」は、少なくとも医療従事者のなかでは広く認知されている印象がありますが、新卒の薬剤師などでは一部知らない薬剤師もいるため、特に小児科のある店舗では周知しておく必要があります。

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事例概要

患者は都内在住の男児で発症の約 1 か月前から離乳食として、市販のジュースにはちみつを混ぜたものを飲んでいたとのことでした。

現在、蜂蜜製品には1歳未満の乳児に与えない旨の表示がなされているものも多くあり、今回の事例の製品にも表示がされていたものの、気付かなかったようです。

また、今回の事例とは関係ないかもしれませんが、インターネットで「離乳食 蜂蜜」で検索すると多くのレシピが出てくるので、与えても大丈夫と誤解する人もいるかもしれません(今回の事例により整備はされてきているようです)。

ボツリヌス症とは

ボツリヌス症にはボツリヌス食中毒と、1歳未満の乳児にみられる乳児ボツリヌス症などがあります。

〈ボツリヌス食中毒〉

食品中でボツリヌス菌が増えたときに産生されたボツリヌス毒素を、食品とともに摂取したことにより発生します。「食品内毒素型食中毒」に分類されます。

ボツリヌス毒素が産生された食品を摂取後、8時間~36時間で、吐き気、おう吐や視力障害、言語障害、えん下困難 (物を飲み込みづらくなる。)などの神経症状が現れるのが特徴で、重症例では呼吸麻痺により死亡します。

〈乳児ボツリヌス症〉

経口的に摂取された芽胞が腸管内で発芽増殖した際に産生された毒素によって発症します。「感染毒素型食中毒」に分類されます。

生後1歳未満の乳児においては、腸内環境が成人とは異なり、腸管内でのボツリヌス菌の定着と増殖が起こりやすいとされます。

ボツリヌス菌は、芽胞(がほう)を形成しますが、この芽胞で汚染された食品を乳児が食べると、腸管内で発芽、増殖して、毒素を産生して乳児ボツリヌス症を発症することがあります。

症状は、便秘状態が数日間続き、全身の筋力が低下する脱力状態になり、 哺乳力の低下、泣き声が小さくなる等、筋肉が弛緩することによる麻痺症状が特徴です。

ほとんどの場合、適切な治療により治癒しますが、まれに亡くなることもあります。

原因食品

〈ボツリヌス食中毒〉

ボツリヌス食中毒では通常、酸素のない状態になっている食品が原因となりやすく、 ビン詰、 缶詰、容器包装詰め食品、保存食品(ビン詰、缶詰は特に自家製のもの)を原因として食中毒が発生しています。

国内では、東北地方の特産である魚の発酵食品“いずし”による食中毒の報告(現在はほとんど生産されていないようです)や、容器包装詰め食品(特に、レトルトに類似しているが、120℃4分の加熱処理がなされていないもの)、ビン詰め、 自家製の缶詰による食中毒が発生しています。

容器包装詰め食品の中でボツリヌス菌が増殖すると、容器は膨張し、開封すると異臭がする場合があります。

その他、海外の事例まで含めると下記の用に多彩な食品が原因になりうると考えられています。
・アスパラガス、豆類、ビート、トウモロコシなど。他に刻みニンニクのオイル漬け、トウガラシ、トマト、ジャガイモのホイル焼き、家庭で瓶詰にした発酵魚類
・野菜、魚、果物、香辛料、まれに牛肉、乳製品、豚肉、鶏肉など
・蜂蜜や黒糖(加熱等の操作が不十分)

〈乳児ボツリヌス症〉

乳児ボツリヌス症の原因食品として、感染源が不明な場合が多く、その予防はボツリヌス食中毒よりも困難とされています。そのため、蜂蜜さえ与えなければ問題はないと考えるべきではないとされています。

蜂蜜以外の原因食品が特定された事例はほとんどありませんが、稀な事例として自家製野菜スープや井戸水が感染源と推定されたものもあります。

また,アメリカでは,コーンシロップ,水飴などの完全に殺菌の施されていない天然甘味料も感染源となり得ると考えられています。

ハチミツ以外にも精製度の低い黒糖などにはボツリヌス菌が含まれている可能性があるのではないかとされていますが、各食品の出荷前にボツリヌス菌や毒素の有無を検査しているわけではなく、ハチミツ以外が安全なのかについてははっきりしていません。

現時点では,芽胞に汚染される恐れのある食品 (蜂蜜,コーンシロップ,野菜ジュース等)を 1 歳未満の乳児に与えないことが肝要です。

加熱方法

芽胞は、加熱や乾燥に対し、高い抵抗性を持ちます。芽胞を死滅させるには120℃4分以上またはこれと同等の加熱殺菌が必要です。100℃程度では、長い時間加熱しても殺菌できません。

そのため、通常の調理方法では死滅しないため注意が必要です。

薬剤師の対応

実際に聞かれるケースは稀かと思いますが、小児科患者などから、薬を混ぜる際に蜂蜜でいいか聞かれる可能性が想定されます。

この際に、乳児ボツリヌスの存在を認識せずに1歳未満に対して、問題ないと回答してしまった場合は極めて不適切な対応となるため注意が必要です。

避けたほうが良い食品

ボツリヌス菌は,土壌や海・湖・川の泥のような自然界では,耐久性のある芽胞の型で長期間生残するため,この芽胞が農作物,魚介類,動物の肉などのあらゆる食品の原材料を汚染する可能性があります。

そのため、完全に安全(ボツリヌスがゼロ)と言える食品は限られており、少なくとも薬剤師から「これなら大丈夫」と言及することは避けたほうがよいでしょう。(しいて言うなら、公的な機関から紹介される離乳食レシピなどであれば、安全性は高いと考えられます。)

少なくとも現時点で過去に乳児ボツリヌス症の報告がある下記の食材などは避けたほうがよいでしょう。つまり、一般的に避けたほうが良い食品は説明可能ですが、100%大丈夫な食品は明言できません。

なお、野菜スープでも報告があるというのが、対応に苦慮する点(野菜をすべて避けるというのは現実的ではないため)かと思いますが、野菜に関する対応は特に公的なものは見つかりませんでした。

個人的には少なくとも、明らかに土が付いているのが目立つ野菜の購入は避けたり、調理の際は十分洗って、皮をむくなどの処置を行うことが必要かと思います。

・蜂蜜
・野菜ジュース
・自家製野菜スープ(野菜に付着)
・コーンシロップ
・井戸水
・黒糖(黒砂糖)など精製度の低い砂糖
・ボツリヌス食中毒の原因とされることの多い食品(ビン詰、缶詰、容器包装詰め食品、保存食品(ビン詰、缶詰は特に自家製のもの))

〈参考〉

1)蜂蜜による乳児ボツリヌス症の発症について 日本小児科学会
http://www.jpeds.or.jp/modules/news/index.php?content_id=266

2)(一財)日本食品分析センター > JFRLニュース > 4-11 忘れてはいけない,ボツリヌス毒素の脅威を(2012年8月)
http://www.jfrl.or.jp/jfrlnews/hygiene/4-1120128.html

3)乳児ボツリヌス症について 日本小児科医会
http://www.jpa-web.org/index.html

4)食品衛生の窓 東京都の食品安全情報サイト
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/micro/boturinu.html

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