2021年9月分のDSUのなかから薬局薬剤師に関係がありそうな薬剤を抜粋してまとめました。
今回はそれほど大きな改訂はありませんでした。
クラリスロマイシンと ベネクレクスタの相互作用については少し教育カテゴリに近い内容でまとめてみました。
①ジャクスタピッドカプセル(ロミタピド)【併用禁忌】
従来、ジャクスタピッドと併用禁忌であったノウリアスト(イストラデフィリン)が併用注意に緩和されました。
もともとジャクスタピッドは強いCYP3A阻害剤も中程度のCYP3A阻害剤もどちらも併用禁忌であり、 従来、 ノウリアストは中程度のCYP3A阻害剤として記載されていたので併用禁忌でしたが、ノウリアストは「CYP3Aの弱い阻害剤」であるとの考え方が妥当であるとされ、 併用注意に緩和されました。
②エルカルチンFF錠(レボカルニチン)【適用上の注意】
もともと一包化が不適な製剤でしたが「一包化調剤を避けること」と明記されました。
なお、包装変更(PTPシートや錠剤をの印字、添加物変更など)も行われています。
③クラリスロマイシン【併用禁忌】
併用禁忌にラツーダとエドルミズ(がん悪液質の治療薬)が追記となりました。なお、これらは相手薬側では以前より記載されています。
また、もともと相互作用に記載のあったベネクレクスタですが、 数か月前にベネクレクスタに「急性骨髄性白血病 」の効能が追加されたことで、クラリスロマシン側の相互作用の記載も相手薬側にあわせて下記のように改訂になっています。
<併用禁忌>
ベネトクラクス(再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期)
腫瘍崩壊症候群の発現が増強するおそれがある。
<併用注意>
ベネトクラクス(再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の維持投与期、急性骨髄性白血病)
ベネトクラクスの副作用が増強するおそれがあるので、ベネトクラクスを減量するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。
ベネクレクスタについてはかなり複雑なので以下にベネクレクスタとクラリスロマイシンなどの強いCYP3A阻害剤との相互作用の注意点をまとめます。
ベネクレクスタ錠は効能により相互作用が異なる
ベネクレクスタ錠は従来の効能である「再発又は難治性の慢性リンパ性白血病」に加えて2021年3月に「急性骨髄性白血病」の効能が追加となっています。
効能によって相互作用(併用禁忌なのか注意なのか)が異なっているうえに、「再発又は難治性の慢性リンパ性白血病」の効能の場合は強いCYP3A阻害剤(クラリスロマイシンなど)が「漸増期は併用禁忌」で、「維持期は併用注意」となるという相互作用がわかりにくい薬剤です。
なお、「急性骨髄性白血病」の効能では「強いCYP3A阻害剤」が併用禁忌ではなく、併用注意です。 ベネクレクスタ側での添付文書の記載は下記のようになっており、とてもわかりにくくなっています(実際に一度ベネクレクスタ錠の添付文書をみておくことをお勧めします)。
<併用禁忌>
<再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期>
強いCYP3A阻害剤
リトナビル、クラリスロマイシン、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール、コビシスタット含有製剤
<併用注意>
<再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の維持投与期、急性骨髄性白血病>
強いCYP3A阻害剤
クラリスロマイシン、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール等
自店でベネクレクスタ錠の処方がなくとも相互作用にクラリスロマイシンを含むため、こういった薬剤があることは認識しておいたほうがよいです。
一応、ざっくりまとめるとこんな感じです↓
<再発又は難治性の慢性リンパ性白血病>
●用量漸増期⇒強いCYP3A阻害剤 が併用禁忌
●維持投与期⇒強いCYP3A阻害剤 が併用注意
<急性骨髄性白血病の効能 >
●用量漸増期でも維持投与期でも⇒強いCYP3A阻害剤は併用注意
併用注意の場合でも減量基準があり実質的には併用ができない
前述の併用注意の場合でも併用する場合は「ベネクレクスタ錠の用量を〇〇mg(効能によって異なる)に減量」といった減量基準が「ベネクレクスタ錠側の添付文書」に記載されているため、実質的には併用ができないと考えたほうがよいかと思います。
なお、「併用注意の薬剤の減量基準」は、「併用注意」の項目ではなく「用法及び用量に関連する注意」に記載がされているので併用注意の項目だけみていると、減量基準を見落とすため注意が必要です。
<用法及び用量に関連する注意>
〈再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)〉
中程度以上のCYP3A阻害剤と併用する場合には、本剤の血中濃度が上昇するおそれがあるため、以下の基準を参考に、本剤の投与を検討すること。
・中程度のCYP3A阻害剤
用量漸増期、維持投与期:本剤を半量以下に減量すること
・強いCYP3A阻害剤
用量漸増期:本剤を併用しないこと
維持投与期:本剤を100mg以下に減量すること
〈急性骨髄性白血病〉
中程度以上のCYP3A阻害剤と併用する場合には、本剤の血中濃度が上昇するおそれがあるため、以下の基準を参考に、本剤の投与を検討すること。
・中程度のCYP3A阻害剤
用量漸増期、維持投与期:本剤を半量以下に減量すること
・強いCYP3A阻害剤
用量漸増期:本剤を1日目は10mg、2日目は20mg、3日目以降は50mgに減量すること
維持投与期:本剤を50㎎に減量すること
また、クラリスロマイシン側の添付文書には、このような併用注意の場合の「相手薬側の減量基準の記載がない」ため、クラリスロマイシン側の添付文書だけ見ていると、減量基準を見落とす可能性が高いため注意が必要です。
こういった「クラリスロマイシンなどと併用注意でも実際は減量基準があり使用している薬剤の用量によっては実質併用できない」という薬剤はセララやトビエースなどいくつか存在しますが、「あらかじめ知っておかないと見落とす」と思ってよいかと思います。
少し前ですが、2021年2月号の日経DIクイズの有料版に「クラリスロマイシンとの併用で用量が制限される薬剤」というタイトルで執筆しているので、持っている方は是非ご参照ください。
注意点
●強いCYP3A阻害剤が併用禁忌の場合は当然だが、併用注意の場合でも、減量基準があるため実質的には併用が厳しい。自薬局で風邪などでクラリスロマイシンが処方された際に、他病院併用薬でベネクレクスタを服用している際に、併用注意だからと軽視して見落とす過誤に注意が必要。
●「併用注意の減量基準」は、「併用注意」の項目ではなく「用法及び用量に関連する注意」に記載がされているので「併用注意」の項目だけみていて、減量基準を見落とすという過誤が想定される。
●実際は併用禁忌(慢性リンパ性白血病の用量漸増期)の場合でも、併用注意に薬剤名の記載があるからと、併用禁忌を見落とす過誤が想定される。
●なお、中程度のCYP3A阻害剤はいずれの効能でも併用注意だが、ベネクレクスタ錠を「半量以下に減量すること」とされているため、やはり実質的には併用が厳しい。
結論
長々と書いてきましたが、ざっくりまとめると結論は割とシンプルで、 ベネクレクスタ錠 とクラリスロマイシンの相互作用は併用禁忌、併用注意いずれにしても実質的には併用できないということです。
前述してますが、クラリスロマイシン処方時に他薬局併用薬でベネクレクスタ錠があったときに相互作用を見落としがちなので注意してください。
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