今回はバルトレックスの服薬指導をまとめました。バルトレックスは以前は効能・効果に小児における単純疱疹・帯状疱疹はありませんでしたが、2014年11月にこれらも効能追加となりました。
服薬指導においては腎機能(クレアチニンクリアランス)に応じた用量調整が必要な薬剤であり、過量となった場合は意識障害・腎障害に注意が必要です。
バルトレックスの概要
服薬指導難度
効能
1.単純疱疹
2.造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制
3.帯状疱疹
4.水痘
5.性器ヘルペスの再発抑制
名前の由来
バルトレックス(バラシクロビル)は、アシクロビルの経口吸収性を改善したプロドラッグ(アシクロビルのL-バリルエステル)であり、このバリン(Valine)の ‘Val’ をとってバルトレックスと命名されています。
バルトレックスの服薬指導で確認すること
①アシクロビルの過敏症の有無【禁忌】
バルトレックスは体内でアシクロビルに代謝されるため、アシクロビルに対して過敏症の既往のある患者においても同様の可能性があるため禁忌となっています。
患者から聴取する際はアシクロビルといってもわからないと思うので、副作用歴全般を聴取するのが現実的な対応かと思います。
②腎障害の有無・高齢であるかどうかの確認
「腎機能の低下している場合」や「高齢者」では精神神経系の副作用があらわれやすいので、投与量及び投与間隔を調整するなど注意することとされています。
腎機能低下の場合
腎機能の低下している場合はクレアチニンクリアランスをもとに投与量・投与間隔を調整します。具体的には患者に対して腎臓が悪いと言われたことがあるかを確認し、該当する場合は血清クレアチニン値、体重、身長(年齢は処方せんがあればわかるので聴取不要)を聴取しクレアチニンクリアランスを計算します。
クレアチニンクリアランスを計算する際はクレアチニンクリアランス計算サイトを使うのが便利です。検索すればいくつかサイトがみつかりますが、私は日本腎臓病薬物療法学会の「eGFR・Ccrの計算」というサイトを使っています。ここでは入力した情報からクレアチニンクリアランスだけでなく理想体重も計算される点が他のサイトより優れています。
肥満患者では筋肉量が体重に比例していまないためクレアチニンクリアランスが高めに推算されてしまいます。このような場合は理想体重を用いてクレアチニンクリアランスを推算します。
腎臓が悪いと言われたことがない高齢者の場合
添付文書上は上記のように「高齢者」も腎機能低下と横並びで記載されていますが、年齢による用量の目安が明示されていないので、腎臓が悪いと言われたことがない高齢者の対応はなかなか悩ましいところです。
薬剤師として患者が何歳から疑義照会して用量の調整を医師に相談するかは個人の判断によりことなりますが、疑義照会しない場合でも少なくとも後述するような水分補給や意識障害の説明はしておくほうがよいでしょう。
③どの効能で使用するか
効能により用法・用量が異なるためどの効能で使用するかを確認します。
特にバルトレックス顆粒を単純疱疹に使用する場合は用量上限に注意が必要です。
詳細は下記の記事をご参照ください。
バルトレックスの服薬指導で説明すること
①水分補給の説明【重要な基本的注意(脱水を起こしやすい患者)】
腎機能が低下している患者、高齢者、水痘患者等の脱水症状をおこしやすいと考えられる患者では、投与中は適切な水分補給を行うこととされています。
これは脱水によりる尿量の減少によりバルトレックスの活性代謝物であるアシクロビルによる腎障害が起こりやすくなってしまうため設定されています。
この腎障害は腎尿細管におけるアシクロビルの濃度が溶解度を超えて結晶化することによって起こると考えられています。これは水分を十分に摂取することによって避けることができるため、脱水症状を起こしやすいと考えられる患者には適切な水分摂取を行うよう説明します。
② 早期に服用を開始すること【重要な基本的注意】
バルトレックスは発病初期に近いほど効果が期待できるので、早期に投与を開始することと記載されています。これは、バルトレックスのウイルスの増殖を阻害するという作用機序から、発病初期に投与を開始することと設定されています。
③改善の兆しが見られないか、悪化する場合は再受診すること【重要な基本的注意】
単純疱疹では5日間、成人の水痘では成人5~7日間、小児の水痘では5日間、帯状疱疹では7日間使用し、改善の兆しが見られないか、あるいは悪化する場合には、他の治療に切り替えることと記載されています。
これらは臨床試験において、上記の日数の投与で有効性が示されており、この期間に改善が認められない場合は、本剤の投与を続けても症状が重篤化又は遷延化するおそれがあるので、他の治療に切り替えるほうがよいと考えられるため設定されています。
④運転などの注意【重要な基本的注意】
意識障害等があらわれることがあるので、自動車の運転等の際には注意するよう説明することと記載があります。なお、腎機能障害患者では、特に意識障害等があらわれやすいので、患者の状態によっては従事させないよう注意することとされています。
腎機能障害患者では運転など避けるように説明し、腎臓が悪くなければ注意すれば運転などが可能ということになります。とりあえず一律に運転などを避けるように説明してしまい、腎機能障害がない場合は患者の反応をみて、「どうしても運転する場合は注意して下さい」などと緩和するのでもよいと思います。
⑤腎機能障害の説明
急性腎不全としての具体的な症状は添付文書には記載がありません。そのため、副作用疾患別対応マニュアルなどを参考にするとよいと思います。からだがだるい、むくみ、尿量が減るなどが出る際はすぐ受診するよう説明します。
⑥精神神経症状の説明
精神神経症状のような中枢神経系の副作用は患者が過度に心配してしまったりと伝えるのに注意が必要な副作用の一つです。
添付文書や患者向け医薬品ガイドから副作用の表現として適当なものを選んで説明するとよいでしょう。意識がもうろうとしたり、混乱する、考えがまとまらないなど出る場合はすぐ受診するよう説明します。
バルトレックスの服薬指導薬歴例
S)帯状疱疹
O)腎異状なし・副作用歴なし
A)初回はすぐ服用すること、服用して改善がない場合や悪化する場合は受診指示。運転など避けるように説明。
万一、だるさ、むくみ、尿量減少、意識がもうろうとしたり、混乱する、考えがまとまらないなど出る場合はすぐ受診するよう説明。服用中は水分を適度に摂取するように説明(脱水を起こしやすい患者)
P)状態確認
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