現在ノロウイルスが流行しており、患者から感染防止や消毒に関して質問されることも多いかと思います。今回はノロウイルスとエタノールに関しての対応をまとめました。
従来はノロウイルスにエタノールは効かないとされてきましたが、昨年アルコール協会より「ノロウイルスに係る エタノール使用ガイドライン」が発行されて次亜塩素酸が使えない部位(金属に対する腐食作用、皮膚に対する刺激・損傷作用、衣類等に対する漂白(脱色)作用があるため)などであれば使用が望まれることがあるとされました。
このことから「エタノールはノロウイルスに効かない」と言ってしまうのは不適切となりましたので注意が必要です。
ノロウイルスに対する消毒薬の効果に関する評価
一般にウイルスに対する消毒薬の不活性化効果については、消毒薬でウイルスを処理する前後のウイルスの力価を測定します。
この際に細胞に評価対象ウイルスを感染させて細胞を培養させる過程が必要となりますが、ノロウイルスの場合は、それを感染させて培養することが可能な、容易に入手できる試験用細胞が現時点ではないこと等から、ネコカリシウイルスやマウスノロウイルスなど類似の代替ウイルスを用いて消毒薬(次亜塩素酸やエタノール)の効果を評価するなどの方法が現状となっているようです。
従来、ノロウイルスにエタノールは効かないとされており、確かにネコカリシウイルスを用いた実験結果の一部でそのような結果もあるようですが、マウスのノロウイルスを用いた実験ではアルコールでウイルス力価を減少させた報告もあるようです。
このガイドラインでは「消毒対象物に応じてエタノールの積極的な使用が望まれる場合」と「手洗いの効果を高める方法としてエタノールを使用する場合」に分けて記載がされています。
1.消毒対象物に応じてエタノールの積極的な使用が望まれる場合
このガイドラインではノロウイルスを完全に不活性化する方法として次亜塩素酸ナトリウムによる処理が有効であることは言うまでもないとし、その上で消毒対象物に応じてエタノールの積極的な使用が望まれる場合として下記のように記載されています。
① 金属製品や脱色が問題となる繊維製品等の消毒には、熱湯(80℃10 分間以上の)やエタノールの使用が適切です。また、トイレ(洋式トイレの便座、ドアノブ、フラッシュバルブ等)の拭き取りによる消毒では、エタノールは次亜塩素酸ナトリウムに比べてプラスチック(便座)や金属(ドアノブ等)に対する劣化作用が小さいことから、エタノールの使用が望まれます。
② 塗装されていない木質箇所(家具、手すり、椅子、ベンチ等)の消毒には、次亜塩素酸ナトリウムは木材(パルプ)と接触すると効力が減弱することから、エタノールの使用が適切です。
③ エタノールを使用する場合は、その効果を高めるため、消毒対象物に対して十分な量のエタノールを用いる二度拭き(一度清拭して 15 秒程度経過後に二度目の清拭を行う。)をお勧めします。
2.手洗いの効果を高める方法としてエタノールを使用する場合
このガイドラインでは、手指に付着しているノロウイルスを減らす方法として石けんと流水による手洗いが最も有効な方法であるとしたうえで、手洗いの効果を高める方法としてエタノールを使用する場合として下記の記載がされています。
① 「石けんと流水による手洗いを行った上で、手洗いの効果を高めるためにエタノールを使用」
一般的には、手洗い後にエタノールを併せて使用することは、相乗効果により、手洗いの効果を高めることになります。
エタノールの使用にあたっては、エタノールの確実な効果を上げる方法として手指を十分乾燥させた後(手指の水分でエタノールが薄まると効果が弱くなります)、指先、手のひら、手の甲、指の間・付け根によく擦り込むことをお勧めします。
② 「すぐに石けんと流水による手洗いが出来ないような場合に、エタノールを使用」
石けんや流水は、いつでも、どこでも必ず利用できるとは限りません。このような場合には、エタノールの使用が有用です。
また、仕事や日常生活において、ドアノブやエレベーターのボタン、券売機・受付機等のタッチパネル、通勤電車のつり革・手すり等には不特定多数の人が接触するため、接触後にエタノールで手指衛生することも有用です。
③ 手指へのエタノールの使用にあたっては、15 秒以内には乾燥しない程度の十分な量を使用し、エタノールが完全に乾燥するまで両手を擦り合わせることが効果を高めることになります。
薬剤師の対応
上記より患者から、ノロウイルスの消毒に対してエタノールの使用の可否を質問された場合は、「効かない」と言うのではなく、金属や脱色が問題となる繊維など次亜塩素酸が使えない場所や、手洗い後に補助的に使用する、すぐに手洗いできないがなどの場合は選択肢としてありうることを説明するのがよいかと思います。
また、この際は二度拭き(消毒対象物の場合)や十分な量を使用し、エタノールが完全に乾燥するまで両手を擦り合わせる(手の消毒の場合)が推奨されるなど併せて具体的なことも説明します。
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