今回は2016年5月に発売された統合失調症を効能とするシクレスト舌下錠(アセナピン)の服薬指導をまとめました。シクレストはセロクエルやジプレキサと禁忌や重要な基本的注意が類似していますが、糖尿病は禁忌ではありません。
また、舌下投与も特徴的ですが、「投与後10分間は飲食を避けること」という特徴があるため、同じ用法の薬がある場合には最後に服用するという順番になるかと思います。
なお、発売されて1年が経過したため、先月から投薬期間制限解除となっています。
- シクレスト(アセナピン)の概要
- シクレストの服薬指導で確認すること
- シクレストの服薬指導で伝えること
- ①取り出し方の説明【適用上の注意】*指導せんに記載あり
- ②服用方法(舌下投与)及び10分間飲食避けること、服用順番の説明【適用上の注意】*指導せんに記載あり
- ③ 起立性低血圧の説明【重要な基本的注意】*指導せんに記載あり
- ④高血糖の説明【重要な基本的注意】*指導せんに記載あり
- ⑤低血糖症状の説明【重要な基本的注意】
- ⑥運転など避けること【重要な基本的注意】
- ⑦体重変動の説明【重要な基本的注意】*指導せんに記載あり
- ⑧悪性症候群に関する注意【重大な副作用】*一部指導せんに記載あり
- ⑨口内のしびれ感や苦味の説明*指導せんにのみ記載あり
- ⑩血栓塞栓症の説明(不動状態、長期臥床、肥満、脱水状態等の危険因子を有する患者の場合)【重要な基本的注意】
- シクレストの服薬指導薬歴例
シクレスト(アセナピン)の概要
服薬指導難度
効能
統合失調症
用法・用量
通常、成人にはアセナピンとして 1 回 5 mgを 1 日 2 回舌下投与から投与を開始する。
なお、維持用量は 1 回 5 mgを 1 日 2 回、最高用量は 1 回10mgを 1 日 2 回までとするが、年齢、症状に応じ適宜増減すること。
名前の由来
SY(symbiosis;共生)+ REST(restituo;呼び戻す、元に戻す)→ SYCREST(元の社会生活に戻る)が由来となっています。
指導せん
シクレストは比較的説明する項目が多いため、指導せんを用意しておいたほうがよいかと思います。
「シクレストを使用される方へ」という冊子と、この冊子から指導に有用な2ページをそのまま抜き出した「指導せん」が存在します。インターネット上でも印刷できます。
冊子の方は、「シクレストのはたらきと効果」や「運転など避ける旨の記載」、「高血糖の症状が目立つ目立つように注意喚起されているページがある」などが特徴ですが、高血糖の注意自体は指導せんにも記載があるので、冊子でなくても「指導せん」で十分な印象があります。
指導せんの注意点
指導せんを使う際に注意が必要なのが、説明が必要とされる副作用のうち「低血糖」の記載は指導せんには記載がないため、これは別途説明する必要があります。
また、副作用がみられた場合の記載が「できるだけ早めに主治医や看護師、薬剤師の先生にご相談ください」というやや弱い表現であるため、高血糖などの副作用を説明する場合は「すぐに受診するように」などと強い表現で言い換えたほうがよいかと思います。
シクレストの服薬指導で確認すること
①バルビツールの等の中枢神経抑制剤併用の有無【禁忌】
「バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者」が中枢神経抑制作用が増強されるおそれがあり、禁忌となっているため併用を確認します。
併用がある場合は「強い影響下」でないかどうかを確認します。「強い影響下」が具体的にどういう状態か明記されていないため、はっきりしませんが、製薬会社に確認したところ「明確ではないが麻酔のような状態では該当する可能性がある」とのことでした。
そのため、個人的には通常量の中枢神経抑制剤の併用で、かつ患者がはっきり受け答えができている状態であれば該当しないかと思っています。
もし、判断が難しい場合は製薬会社に確認のうえ、必要であれば疑義照会する対応となるかと思います。
②アドレナリンの併用の有無【併用禁忌】
アドレナリンが併用禁忌であるため確認します。これはアドレナリンの作用を逆転させ、重篤な血圧降下を起こすことがあるため設定されています。
アドレナリン製剤としては調剤薬局ではボスミン外用液やエピペン注射液が該当します。なお、この併用禁忌は、ほぼすべての統合失調症を効能とする薬剤に共通しているため、代替がありません。
一応、ドグマチールは統合失調症の効能をもち、併用禁忌にアドレナリンが該当しない薬剤となります。
併用がエピペンの場合は、エピペンも代替がないため、疑義照会したうえで併用禁忌を承知で使用するか、ドグマチールを使うかの選択となるかと思います。
③パキシルの併用の有無【併用注意】
シクレスト投与中に、パロキセチンを単回投与した際に、パロキセチンのCmax及びAUCがそれぞれ82%及び92%増加したとの報告があるため併用を確認します。
併用がある場合には「パロキセチンの減量」か「シクレストの変更」、もしくは「副作用に注意し変更なし」のいずれにするか疑義照会したほうがよいかと思います。
④肝機能障害の有無【禁忌】
重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)が禁忌であるため、肝臓が悪いと言われたことがないか確認します。
重度の肝機能障害者群 (Child-Pugh 分類 C) では肝機能正常者群に比べてアセナピンの AUC0-∞が 5.5 倍大きかったが、軽度もしくは中等度の肝機能障害者群(Child-Pugh 分類A、B)では、肝機能正常者群と同様であった。
本剤の血中濃度が上昇し、副作用発現のリスクが高まる可能性があるので、重度の肝機能障害(Child-Pugh 分類 C)のある患者には本剤を投与しないこと
⑤不動状態、長期臥床、肥満、脱水状態等の危険因子の有無【重要な基本的注意】
不動状態、長期臥床、肥満、脱水状態等がある場合は血栓塞栓症のリスクとなるため確認します。
該当する場合は血栓塞栓症の症状を説明したほうがよいかと思います。
抗精神病薬において、肺塞栓症、静脈血栓症等の血栓塞栓症が報告されているので、不動状態、長期臥床、肥満、脱水状態等の危険因子を有する患者に投与する場合には注意すること
シクレストの服薬指導で伝えること
①取り出し方の説明【適用上の注意】*指導せんに記載あり
錠剤を取り出す際には、裏面のシートを剥がした後、錠剤をゆっくりつまんで取り出すこと。錠剤をつぶさないこと。欠けや割れが生じた場合は全量を舌下に入れることを説明します。また、濡れた手で触らないことを説明します。
・ブリスターシートから取り出す際には、裏面のシートを剥がした後、錠剤をゆっくりつまんで取り出すこと。錠剤をつぶさないこと。欠けや割れが生じた場合は全量を舌下に入れること。
[本剤は通常の錠剤に比べてやわらかいため、シートを剥がさずに押し出そうとしたり、シートを切ったり、破ったりすると割れることがある。]・吸湿性であるため、使用直前に乾いた手でブリスターシートから取り出し、直ちに舌下に入れること。
②服用方法(舌下投与)及び10分間飲食避けること、服用順番の説明【適用上の注意】*指導せんに記載あり
水なしで舌下投与し、投与後10分間は飲食を避けることを説明します。また、同じ用法の薬がある場合にシクレストを先に服用してしまうと10分待つ必要があるため、シクレストは最後に服用する順番がよいことを説明します。
これは投与後10分未満の飲水によりAUCが低下するため設定されています。
健康成人にアセナピン10mgを 1 日 1 回舌下投与したとき、10分経過後に水を摂取しても薬物動態に影響を及ぼさなかった。
一方、投与後 5 分又は 2 分時点で水を摂取したとき、アセナピンのAUC0-24hrがそれぞれ10%及び19%低下した。
飲み込んだ場合
また、本剤は舌下の口腔粘膜より吸収されて効果を発現するため「飲み込まないこと」とされています。
飲み込んだ場合は肝臓及び消化管での初回通過効果が大きいためバイオアベイラビリティが低くなります。
製薬会社によると、舌下投与のバイオアベイラビリティが34.8に対して飲み込んだ場合は1.8とのことでした。つまり、単純に考えておよそ1/20となり、ほとんど吸収されないと考えられます。
③ 起立性低血圧の説明【重要な基本的注意】*指導せんに記載あり
起立性低血圧があらわれることがあるのでめまい、立ちくらみなどでる場合は医師に相談するよう説明します。
投与初期、再投与時、増量時にα交感神経遮断作用に基づく起立性低血圧があらわれることがあるので、患者の状態を慎重に観察し、低血圧症状があらわれた場合は減量する等、適切な処置を行うこと。
④高血糖の説明【重要な基本的注意】*指導せんに記載あり
高血糖などがでることがあるので、口渇、多飲、多尿、頻尿等のみられる場合はすぐ受診するように説明します。
本剤の投与により、高血糖や糖尿病の悪化があらわれ、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡に至ることがあるので、本剤投与中は、口渇、多飲、多尿、頻尿等の症状の発現に注意するとともに、特に糖尿病又はその既往歴あるいはその危険因子を有する患者では、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。
⑤低血糖症状の説明【重要な基本的注意】
低血糖があらわれることがあるので倦怠感、冷汗、振戦、傾眠等みられる場合は糖分を摂取しすぐ受診するように説明します。
これは指導せんには直接的な記載が無いため、別途、低血糖用の指導せんを使うなどして説明するのがよいかと思います。
低血糖があらわれることがあるので、本剤投与中は、脱力感、倦怠感、冷汗、振戦、傾眠、意識障害等の低血糖症状に注意するとともに、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。
本剤の投与に際し、あらかじめ上記低血糖及び高血糖の副作用が発現する場合があることを、患者及びその家族に十分に説明し、高血糖症状(口渇、多飲、多尿、頻尿等)、低血糖症状(脱力感、倦怠感、冷汗、振戦、傾眠、意識障害等)に注意し、このような症状があらわれた場合には、直ちに投与を中断し、医師の診察を受けるよう指導すること。
⑥運転など避けること【重要な基本的注意】
眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転等危険を伴う機械の操作は避けることを説明します。
⑦体重変動の説明【重要な基本的注意】*指導せんに記載あり
体重の変動(増加、減少)を来す場合があるので、変動がある場合は相談するよう説明します。
本剤の投与により、体重の変動(増加、減少)を来すことがあるので、本剤投与中は体重の推移を注意深く観察し、体重の変動が認められた場合には、必要に応じて適切な処置を行うこと。
⑧悪性症候群に関する注意【重大な副作用】*一部指導せんに記載あり
発熱、無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、発汗等がみられる場合は、投与を中止しすぐ受診するように説明します。
実際には簡易な言葉で説明するため、「発熱、動きが少なく意識がうすれる、筋肉のこわばり・ふるえ、飲み込みにくい、脈が早くなる、汗が出るなどが見られ場合」は連絡し、すぐ受診するように説明します。
⑨口内のしびれ感や苦味の説明*指導せんにのみ記載あり
口の中にしびれ感や苦味があらわれることがあることを説明します。
この内容は、指導せんに記載があり、「この症状は通常1時間以内に消失します」と記載されています。
ただ、なぜか添付文書に該当するような内容の記載がないため、製薬会社に確認したことろ、指導せんのこの記載は添付文書の「その他の副作用」の「胃腸障害」の項目の「口の感覚鈍麻、口腔内不快感、口の錯感覚」の部分が該当するようです。
指導せんには「通常1時間以内に消失します」と記載されていますが、市販直後調査では1時間以上続く症例もある程度いたようです。
実際に発現した場合の対応
実際に発現した場合に、「患者が気にならなければ放置してよいのか」に関しては、製薬会社から明確な回答は得られませんでした。
因果関係はわかりませんが、「口腔内潰瘍形」などの副作用もあるので、「放置してよい」とも言えないようです。
また、指導せんの別ページ「気をつけていただきたい症状」のひとつとしても「口の中のしびれ感」の記載があり、「このような症状があらわれたり、何かいつもと違う症状があらわれたらできるだけ早めに主治医や看護師、薬剤師の先生にご相談ください」と記載されています。
これらを踏まえると、患者に対しては「頻繁にみられたり、いつまでも続く、程度がひどい場合は一度、医師に伝えるように説明する」のが妥当な対応かと思います。
⑩血栓塞栓症の説明(不動状態、長期臥床、肥満、脱水状態等の危険因子を有する患者の場合)【重要な基本的注意】
抗精神病薬において、肺塞栓症、静脈血栓症等の血栓塞栓症が報告されており、不動状態、長期臥床、肥満、脱水状態等の危険因子を有する患者に投与する場合には注意することと記載があるため、該当する患者には血栓症の注意を促します。
症状として息切れ、胸痛、四肢の疼痛、浮腫等が認められた場合には、すぐに受診するように説明します。
シクレストの服薬指導薬歴例
S)統合失調症
O)併用なし、肝臓悪いといわれたことなし、長期臥床や肥満なし
A)
指導せん渡して取り出し方、舌下投与、10分間飲食避けること、順番説明。
眠気などでうるので運転等避けること説明。
めまい、立ちくらみ、体重の変動(増加、減少)ある場合は医師に相談指示。
口渇、多飲、多尿、頻尿、発熱、動きが少なく意識がうすれる、筋肉のこわばり・ふるえ、飲み込みにくい、脈が早くなる、汗が出るなど出る際はすぐ受診指示。
倦怠感、冷汗、振戦、傾眠等みられる場合は糖分を摂取しすぐ受診するように説明。
口内のしびれ感や苦味説明、頻繁にみられたり、いつまでも続く、程度がひどい場合は医師に伝えるよう指示。
(血栓リスクある場合)息切れ、胸痛、四肢の疼痛、浮腫等が認められた場合には、すぐに受診するように説明。
P)状態確認
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