今回は前立腺肥大症に伴う排尿障害を効能とする薬剤であるザルティア(タダラフィル)の服薬指導をまとめました。
程度にもよりますが、心疾患を持つ場合禁忌となることや硝酸剤(外用薬も含む)が併用禁忌となることに注意が必要な薬剤です。
また、去勢抵抗性前立腺がんの薬剤である「ザイティガ」と名称が類似しており、医師の処方ミスや薬剤師による取り違えの報告があるため注意が必要です。
ザルティア(タダラフィル)の概要
服薬指導難度
効能
前立腺肥大症に伴う排尿障害
用法・用量
通常、成人には1日1回タダラフィルとして5mgを経口投与する。
名前の由来
特にありません。
指導せん
「ザルティア錠を服用される方へ」という指導せんが製品に封入されています。硝酸剤の併用禁忌が下記のように記載されています。
・狭心症などの心臓病によく用いられるニトログリセリンなどの硝酸剤とザルティア錠は併用できません。重篤な副作用を起こすことがあります。
指導せんとは異なりますが、患者向け医薬品ガイドの【この薬の使用中に気をつけなければならないことは?】 の部分は「服薬指導の際に伝えること」の説明に有用であるため、患者向医薬品ガイドを印刷してこの部分だけ切り取って使うと有用かと思います。
後述の「服薬指導の際に伝えること」の心筋梗塞以外の内容はこの部分に記載されています。
ザルティアの服薬指導で確認すること
①心臓・脈の病気(心筋梗塞・狭心症・心不全・不整脈)の有無【禁忌】
不安定狭心症、心不全(NYHA分類Ⅲ度以上)、コントロール不良の不整脈、心筋梗塞の既往歴が最近3ヵ月以内にある患者」が禁忌であるため心臓・脈の病気(心筋梗塞・狭心症・心不全・不整脈)の有無を確認します。
該当する場合は、禁忌に該当する程度(心筋梗塞の場合は発症時期を確認)であるかを確認しますが、程度が不明瞭である場合も疑義照会します。
②脳卒中の有無【禁忌】
「脳梗塞・脳出血の既往歴が最近6ヵ月以内にある患者」が禁忌であるため、脳卒中の既往を確認します。
脳卒中に該当する場合は、発症時期を確認します。
③低血圧・高血圧の有無【禁忌】
「低血圧(血圧<90/50mmHg)又はコントロール不良の高血圧(安静時血圧>170/100mmHg)」か禁忌であるため確認します。
該当する場合は、具体的な血圧の値を聴取して禁忌に該当する程度であるかを確認します。
④腎機能障害の有無【禁忌・用法及び用量に関連する使用上の注意】
「重度の腎障害」が禁忌であるため確認します。また、中等度の腎障害のある患者では、低用量である2.5mgからの開始が考慮されるため確認します。
中等度の腎障害のある患者では、本剤の血漿中濃度が上昇する可能性があること及び投与経験が限られていることから、患者の状態を観察しながら1日1回2.5mgから投与を開始するなども考慮すること
⑤肝機能障害の有無【禁忌】
「重度の肝障害」が禁忌であるため確認します。
⑥硝酸剤及びNO供与剤・アデムパスの併用の有無【併用禁忌】
硝酸剤及びNO供与剤・アデムパスが併用禁忌であるため併用を確認します。
特にフランドルテープなどの外用薬である場合は併用禁忌であることを見落としやすいため注意が必要です。
⑦CYP3A4を強く阻害する薬剤の併用の有無【用法及び用量に関連する使用上の注意】
CYP3A4を強く阻害する薬剤を併用している場合は開始用量が2.5mgとなるため確認します。
添付文書には具体的にどの薬剤が3A4(CYP3A4)を強く阻害する薬剤かの記載はありませんが、別の薬剤の添付文書で「「強いCYP3A4阻害剤」として記載されている下記の薬剤などは該当すると考えられます。
・クラリスロマイシン(クラリス)
・インジナビル(クリキシバン)
・イトラコナゾール(イトリゾール)
・ネルフィナビル(ビラセプト)
・サキナビル(インビラーゼ)
・テラプレビル(テラビック)
・ボリコナゾール(ブイフェンド)
・リトナビル含有製剤(ノービア、カレトラ、ヴィキラックス)
・コビシスタット含有製剤(スタリビルド)
チトクロームP450 3A4(CYP3A4)を強く阻害する薬剤を投与中の患者では、本剤の血漿中濃度が上昇することが認められているので、1日1回2.5mgから投与を開始し、患者の状態を観察しながら適宜5mgへ増量すること。
CYP3A4を強く阻害する薬剤の服用が短期の場合
上記の併用がある場合のザルティアの開始用量が5mgの場合は、いずれにせよ疑義照会が必要ですが、CYP3A4を強く阻害する薬剤が短期処方(特にクラリスロマイシンなどの薬剤)であれば、CYP3A4を強く阻害する薬剤服用終了後からザルティアの服用を開始する方法もあります。
これらの選択肢も考慮のうえ疑義照会します。
⑧疾患名の確認【販売名類似による注意】
前述しておりますが、「ザルティア」は、去勢抵抗性前立腺がんの薬剤である「ザイティガ」と名称が類似しており、医師による処方ミスも報告されているため、服薬指導時に疾患名の確認が必要です。
口頭もしくは薬情に記載されている薬効をみせて「前立腺肥大」で間違えないか確認します。
ザルティアの服薬指導で伝えること
①持続勃起の説明【重要な基本的注意】
持続勃起により陰茎組織が損傷することがあるので、4時間以上勃起が持続する場合はすぐに受診するよう説明します。
4時間以上の勃起の延長又は持続勃起(6時間以上持続する痛みを伴う勃起)が外国にてごくまれに報告されている。
持続勃起に対する処置を速やかに行わないと陰茎組織の損傷又は勃起機能を永続的に損なうことがあるので、勃起が4時間以上持続する症状がみられた場合、直ちに医師の診断を受けるよう指導すること。
②急な視力低下の説明【重要な基本的注意】
服用後に急激な視力低下がでる場合はすぐ眼科に受診するよう説明します。
本剤投与後に急激な視力低下又は急激な視力喪失があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、速やかに眼科専門医の診察を受けるよう、患者に指導すること。
③運転などの注意【重要な基本的注意】
臨床試験において、めまいや視覚障害が認められているので、高所作業、自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させること。
④急激な聴力低下の説明【重要な基本的注意】
服用後に急激な聴力低下がでる場合はすぐ耳鼻科に受診するよう説明します。
本剤投与後に急激な聴力低下又は突発性難聴(耳鳴り、めまいを伴うことがある)があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、速やかに耳鼻科専門医の診察を受けるよう、患者に指導すること。
⑤心筋梗塞の説明【警告】
警告の項目には心血管系等の有害事象の内容が記載されていますが、【重要な基本的注意】の項目には何故かこれに関する注意喚起がされていないため見落としがちな内容となります。
胸の痛み、圧迫感などが見られたら、すぐに受診するように説明します。
死亡例を含む心筋梗塞等の重篤な心血管系等の有害事象が報告されているので、本剤投与の前に、心血管系障害の有無等を十分確認すること。
⑥グレープフルーツを避けること【併用注意】
併用注意であるためグレープフルーツを避けることを説明します。
ザルティアの服薬指導薬歴例
S)前立腺肥大
O)心・脈疾患なし、脳卒中なし、低血圧・高血圧なし、腎臓・肝臓悪いと言われたことなし、併用なし
A)4時間以上勃起が持続する場合はすぐに受診指示。急激な視力・聴力低下が見られる際はすぐ眼科・耳鼻科に受診するよう指示。胸の痛み、圧迫感などが見られたら、すぐに受診するように説明。めまいなどでうるので運転など注意指示。
グレープフルーツ避けること説明。
P)状態確認
コメント